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 違う---この思いを胸に抱く度、私はたまらない申し訳なさと、理屈のわからない泣きたさを覚えた。
きっと絵に描いた理想の家族、話にある暖かな家庭。私はおよそ考えうる限りの愛情を注いでもらい、そ
してお父さんとお母さんを尊敬し、愛している。私の目蓋の裏にはいつも、あたたかな橙色の光が満ちて
いる。それは悲しいことすら糧に変えられるような強さ、お父さんとお母さんがその身で示してくれた自
分を肯定するための生き方。
 もし、私が両親を、お義父さんとお義母さんだと知らなければ、私はこんな思いに捕われることなく、
その暖かな光に溢れた道を歩めたのだろうかと。一抹の恨みすら孕んだこの裏切りめいた思いが本当は言
い訳だと、私はわかっている。
 目を閉じ、祈ると掌に表れる白い光。人を癒し傷を塞ぐこの光が私は本当は、
 ほんとうは、
「は、はっ・・・はぁ・・・っ。」
 熱を吐き出すような荒々しい呼吸が体を引き攣らせている。エリカは座り込んだまま、彼女の濡れた背
中を見上げていた。教会堂を覆わんとばかりに燃え上がり始めた炎に煽られて、濃青の上着を染める液体
が赤黒く照らされる。生の色だ。床に落ちて黒く固まったそれは同時に、死の色をしている。突然咽せ、
何か吐き出す音を響かせても、彼女は後ろを振り返らなかった。斧に両腕で掴まり、震える足で、体は前
を向いている。
 やめて、もういいよ、さがって、幾つもの制止の言葉が浮かんだ。だが、エリカの唇は顎から震えてし
まって、音が出て来ない。熱で乾いた舌の根が喉の奥に貼り付く。華撃団として敵に出会ってしまったら、
その場で倒さなければならない、逃げることはできない、それは市民に被害を出すことだからと、人の言
葉をそのまま受け売りしたのはかつての自分だ。
 炎の向こうでは、異形の目が二つ、彼女を鈍ること無く見つめていた。
「・・・たくしは、負けない。」
 振り下ろした左手から、血の雫が床に飛んだ。折られていた背が、ゆっくりと起き上がる。濡れて貼り
付いていた上着の切れ端が垂れ下がり、肩甲骨の浮いた細い背中が露になる。三筋の鋭利な傷が、体の内
側肉を開き、血を垂れ流していた。
 グリシーヌは戦斧を手に、炎の前に立ちはだかった。
「私は、貴様にエリカを傷付けさせん!」
 咆哮を解き放ち、彼女の足が床を蹴る。
「グリシーヌさん!」
 目を瞑り、祈ったエリカの右手に、白い聖なる光が宿る。