「何の意味がある。」
 声に温度があるのなら、それは確かに4℃だった。
 頭の上から冷徹を被せ、二つの腕が後ろから首に巻き付いた。薔薇の香りが頬を掠める。熱すら伝わる
 お似合いじゃないか。
 ロベリアは頬杖をつきながら、ぼんやりと楽屋の中心を眺めた。
「何故、私が野獣なのだ! 納得いかん!」
 金色のたてがみを振り乱し、獣が咆哮をあげた。青い目の野獣の腕を、修道女が掴んで止める。
「えー! そんなことありませんよ!
 それに、魔法が解けたら王子様ですよ! お・う・じ・さ・ま!」
「そうだよ、いいじゃない!」
 魔法使いの弟子が椅子の上であぐらをかいて言う。その足の上には、何やら木製の箱が置かれていて、
それを足で挟んで内側を彫刻刀で削っている。どうやら新しい手品の種作り真っ最中のようだった。尖ら
せたその唇を睨み、野獣は尚も首を横に大きく振った。
「イヤだ! なんでそもそも劇仕立てのレビュウでこ」
「花火が美女役なのにかよ。」
 ロベリアがこれ見よがしにため息を吐くと、野獣の悪態が止まった。獣は首を巡らして、その美しい少
女を目にとめて頬を微かに染めた。
「はいはい、じゃあ決まりだね!」
 グラン・マが手を叩いた瞬間、次のレビュウのテーマが美女と野獣に決定した。