水の中をまるで彼女はなめらかに進む。
室内のプールで、まだ肌寒い春の日差しも遠くて、限られた世界なのに、
彼女の腕が掻く水だけまるで海のようだ。
水の自由さも冷たさもやわらかさも、すべてをまとって彼女は泳ぐ。
まるで、違う国から来たみたい、と花火は水面を眺めながら思う。
彼女はプールの端で軽々と身を翻すと、背を水に浮かべた。
手で弧を描いて、まるで優美に泳ぐ。
そう、彼女は水の中では自由で、どこかに行ってしまいそうに冷たくて、
「もうそろそろ、お嬢さまも気付かれますよ。」
隣でローラがそう頷く。
花火はグリシーヌがこちらを見上げて、水のようにやわらかく微笑む姿を思い描いた。